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富山地方裁判所 平成3年(わ)146号 判決

主文

被告人Aを判示第一の二及び第一の三の2の罪について懲役二年六か月に、判示第一の四の2、第一の五の2及び第一の六の1の罪について死刑に処する。

被告人Bを無期懲役に処する。

被告人Bに対し、未決勾留日数中五三〇日をその刑に算入する。

被告人Bから、押収してある回転弾倉式けん銃一丁(平成三年押第三六号の4)及び実包四発(同押号の5)を没収する。

理由

第一認定した事実

一  被告人両名の身上及び経歴等

1  被告人Aは、昭和二二年一月富山市において出生し、昭和三七年に地元の中学校を卒業後、京都市内の友禅染の会社で職人として約九年間働き、同社が倒産したため、富山市に戻り、タクシー運転手として働いた後、一年間職業訓練所に通い、昭和四九年に甲野住宅工業株式会社に就職し、製造工、ボイラー係等として働いたが、昭和五九年同社を退職し、「乙山営繕」の名称でトイレ改造業を始めたが、金融業に手を出すなどして資金繰りに窮し、昭和六一年ころ知り合った暴力団組長Cとともに恐喝未遂事件を起こしたことなどから昭和六二年ころには廃業した。そして、昭和六三年ころから富山市内において丙川商事の名称で金融業を営んでいたDの手伝いをするようになり、その関係で富山市内で歯科医院を開業するEと知り合い、同人の暴力団絡みの紛争を解決したことからその信頼を得、平成元年一一月ころから同医院の事務長となり住み込みで働くようになったが、そこでの仕事は、Eの送迎などの雑用程度であったため、Eの資金を利用して手形割引などを行い収入を得るという不安定なものであった。

この間、被告人Aは、昭和四八年九月にF子と結婚し、長女(昭和四八年一二月二一日生)、長男(昭和五〇年一二月一九日生)をもうけたが、前記のとおりトイレ改造業に失敗するなどして借金を抱えたため、その返済を免れるためなどの理由から、昭和六二年一〇月にはF子と協議離婚したが、それ以後も同女らの住む富山市高屋敷の市営住宅に頻繁に出入りしていた。

2  被告人Bは、昭和二六年四月和歌山県新宮市において出生し、昭和四二年夏名古屋市内の私立商業高校を家庭の事情で中途退学した後は、工員等を経て、昭和四七年ころから運送業等種々の事業を手掛けたが、昭和六〇年ころには事業に失敗し、覚せい剤に手を染めるようになった。その後昭和六二年六月ころ、前記暴力団組長Cと知り合い、同人の舎弟となり、昭和六三年二月ころいったん組を飛び出したものの、平成元年五月ころには復帰し、平成二年一〇月ころからは同組の若頭となって活動していた。

この間、被告人Bは、昭和四八年五月にG子と結婚し、三人の子をもうけたが、前記のとおり被告人が覚せい剤に手を染めたことなどから昭和六一年九月には協議離婚した。その後被告人は、H子と知り合い、同女との間に長男(昭和六三年四月一六日生)をもうけたが、平成二年一一月ころにはI子と知り合い、間もなく金沢市御影町の同女方で同棲するようになった。

二  詐欺被告事件

(犯罪事実)

被告人Aは、前記のとおり、Dが営む金融業の手伝いをしていたものであるが、Dにおいて以前馬喰のJに対し二〇〇万円を貸したものの、Jが返済期日にその支払を完了する見込みが薄いため、右債権の回収を図るためいわゆる買い手形(満期に決済される見込みが全くない手形)を利用することをDと相談し、昭和六三年五月初旬ころ、JをDの事務所に呼び出した上、Dに対し、近く用意する買い手形を利用して第三者から割引名下に金員を騙取し、これを借金の返済に充当するよう強く求め、Dも自己の借金を返済するためには右計画に加わるほかはないものと考えてこれを了承し、ここに被告人Aは、D及びJと共謀の上

1 被告人らにおいてあらかじめ買い取り用意した有限会社丁原物産振出の額面金額二五〇万円の約束手形一通(支払場所瀬戸信用金庫城見支店、支払期日昭和六三年八月二〇日)を利用して金員を騙取しようと企て、同年五月二六日、富山市《番地省略》所在の戊田自動車(経営者K)事務所において、Jにおいて、同人に対し六〇万円の自動車修理代金債権等を有している右K(当時四八歳)に対し、右手形は被告人らが五万円で買い取り用意したもので、期日に決済される可能性はないものであり、被告人らにおいて支払をする意思も能力もないのに、それらの情を秘し、「この手形は、私が馬の売買で得た手形で、商売上の確かなものだ。期日には間違いなく決済されるものだ。ついては借金六〇万円と利息分二〇万円を差し引き、残金をすぐに欲しいから割り引いてくれないか。」等と虚構の事実を申し向け、右手形を交付してその割引方を依頼し、右Kをして、期日には確実に支払を受けられるものと誤信させ、よって、いずれも、同人から、右戊田自動車事務所において、同月二七日、同人振出にかかる額面金額五〇万円の小切手一通(小切手番号《省略》)、同月三〇日、同様の額面金額七〇万円の小切手一通(小切手番号《省略》)、同年六月一三日、同様の額面金額五〇万円の小切手一通(小切手番号《省略》)の各交付を受けて、これを騙取し、

2 被告人らにおいてあらかじめ買い取り用意した有限会社丁原物産振出の額面金額三〇〇万円の約束手形一通(支払場所瀬戸信用金庫城見支店、支払期日昭和六三年八月一〇日)を利用して金員を騙取しようと企て、同年六月五日、富山県《番地省略》所在の甲田自動車板金(経営者L)事務所において、Jにおいて、右L(当時五五歳)に対し、右手形は被告人らが五万円で買い取り用意したもので、期日に決済される可能性はないものであり、被告人らにおいて支払をする意思も能力もないのに、それらの情を秘し、「馬の取引の商売で受け取った手形があるんだが、二、三日中にどうしても金がいるから一枚割ってもらえんか。」等と、また翌六日には富山市《番地省略》所在のJ方において、「絶対に大丈夫や。この手形、期日がくれば必ずおちる。」等とそれぞれ虚構の事実を申し向け、右手形を交付してその割引方を依頼し、右Lをして、期日には確実に支払を受けられるものと誤信させ、よって、同人から、同日、右J方において、現金約一九八万円の交付を受けて、これを騙取し

3 被告人らにおいてあらかじめ買い取り用意した有限会社乙野商会振出の額面金額二〇〇万円の約束手形一通(支払場所伏見信用金庫西陣支店、支払期日昭和六三年九月五日)を利用して金員を騙取しようと企て、同月一六日、前記甲田自動車板金事務所において、Jにおいて、前記Lに対し、右手形は被告人らが五万円で買い取り用意したもので、期日に決済される可能性はないものであり、被告人らにおいて支払をする意思も能力もないのに、それらの情を秘し、「もう一枚頼まれんか。二、三日中にどうしても金がいるがで。」、「絶対に大丈夫だ、期日がくれば必ずおちる。」等と虚構の事実を申し向け、右手形を交付してその割引方を依頼し、右Lをして、期日には確実に支払を受けられるものと誤信させ、よって、同人から、同月一七日、前記J方において、現金約一九八万円の交付を受けて、これを騙取した。

三  窃盗被告事件

1  犯行に至る経緯

被告人Aは、平成二年四月ころ、勤務医が歯科医院開業のために土地を探しているとの情報を得て、土地売買の仲介により利益を得ようと考え、Mとその所有する土地を購入する交渉を始め、同人との間では、売買代金三六〇〇万円、内一〇〇〇万円をいわゆる裏金とすることで合意し、Cにもその計画を打ち明けていたところ、Cが事件で逮捕された同年七月下旬ころからは、Cを通じて右計画を聞いていた被告人Bと連絡を取り合うようになった。被告人両名は、互いに金銭に窮していたことから、Mが取得する裏金を契約当日に窃取することを企て、実行行為はCの知人で「泥棒のプロ」と称されるNに担当させることとした。そこで、被告人AはMと連絡を取り、売買契約の日時を同年八月八日、場所を富山市北新町地内の司法書士事務所と決めるとともに、契約後に富山市《番地省略》所在の割烹「丙山亭」で会食することを約し、一方、被告人BはNと連絡を取って同人が窃盗の実行行為を担当する旨の同意を取り付けた。そして、同年八月七日、被告人両名は、Nとともに、犯行場所と決めた前記丙山亭の下見をするとともに、被告人AがMらと会食中に、Nにおいて駐車中の自動車内から現金を窃取することなどの役割分担を相談し、ここに被告人両名及びNの間に共謀が成立した。

2  犯罪事実

被告人両名は、Nと共謀の上、同月八日午後零時ころ、前記割烹「丙山亭」北側駐車場において、Nにおいて、同所に駐車中の普通乗用自動車の運転席ドアガラスを所携の石で叩き割り、右ドアを開けてトランクを開ける操作をした上、右トランク内からM所有の現金一〇〇〇万円及び印鑑等八点(時価合計約四三〇〇円相当)在中のアタッシュケース一個(時価約五〇〇〇円相当)を窃取した。

四  昏酔盗被告事件

1  犯行に至る経緯

被告人Aは、平成二年二月ころから、Oの依頼を受けて丁川工業所振出の約束手形をPらとともに割り引くことを繰り返して生活費等を得ていたが、仲間が手形金を返済しないまま夜逃げてしまったことや、ビルを転売して利ざやを稼ぐ計画も失敗に終わったこともあって、丁川工業所は倒産し、その手形も不渡りとなり、Pとともに数千万円の借財を抱えることになった。この間、被告人Aは、E振出名義の約束手形を無断で流用するようにもなり、金融業者で割引しては負債の返済に充て、期日までには他から資金を調達しては取立てに回る前に約束手形を回収することを繰り返していたところ、平成三年三月中旬ころ、右のように無断で流用していたE振出名義の約束手形のうちPに預けていた額面金額三〇〇万円の約束手形二通(内一通の額面金額はPが勝手に記入したもの)を、Pにおいて被告人Aの承諾なしに暴力団戊原組幹部のGに持ち込んで割り引いたため、Qにおいては、支払期日である四月三日と一七日に取立てに回す意向であることを知り、四月にはPの行方も知れなくなった上、Eから既に他人名義で借りた二五〇万円を合わせて約七五〇万円の借金をし、右二五〇万円の返済をしばしば催促されていたため、右各手形が期日に取立てに回されるようなことがあれが約束手形を無断で流用していたことがEの知るところとなって、その信用を失い、E歯科医院事務長の地位を失うことになるのは必至と考え、右手形の回収のため、何としてでも現金を用意しなければならないと考えるようになった。

一方、被告人Bも従前からRやSから高利の借金をしていたものであるが、その返済にも困るようになり、知り合いの小切手を使って返済の繰延べや新たな借財を繰り返しており、常に現金に窮していた状態であった。

このようなことから、被告人両名は、この間、互いに連絡を取り合い、カラオケボックスや駐車場の売上金強奪、現金輸送車襲撃、絵画盗等を図り、平成三年三月下旬には馬の売買に携わっているJを、被告人Bが入手し被告人Aにおいて保管していた二五口径のけん銃で殺害して現金を強奪することを考え、待ち伏せしたが、Jが警戒して帰りを一日遅らせたため失敗に終わった。被告人Aは現金を用意することができなかったため、旧知の仲であるCの取りなしにより、同年四月二日、前記約束手形二通のうち、四月三日満期のものについては期限を五月三日まで延ばし、四月一七日満期のものについても暫く取立てに回さない旨の約束をQから取り付けることができた。この結果、被告人Aとしては、E歯科医院の事務長の地位を守り、Cの顔を潰さないためにも、是が非でも五月三日までに三〇〇万円を用意しなければならないことになった。

そこで、被告人両名は、同年四月上旬ころ、Rが山林を売却し多額の現金を得たとの噂から、被告人Bが適当な口実をもうけてRに現金を用意させてI子が居住する金沢市《番地省略》所在の甲川ハイツ(以下「甲川ハイツ」という。)一〇一号室(以下「I子方」という。)に呼び出し、I子が睡眠薬入りの飲み物を出してRを眠らせた上、その所持金を奪い、同人を殺害する旨の計画を立て、被告人Aにおいて、E歯科医院から睡眠導入剤ハルシオン錠剤を持ち出し、被告人Bにおいて、Rに電話をかけて現金を持ってI子方に来るように手配し、Rを待ち受けたが、不審を抱いたRが現れなかったため、右計画も失敗に終わった。しかし、被告人両名は、なおもRの所持金を獲得するため、被告人BとRがCらとともに同月一七日に一泊旅行をする機会を利用して、その際にR方に空き巣に入ることを計画し、R方の合鍵を入手すべく、同月一五日ころ、I子方において、I子を交えて、I子がRの内妻T子をI子方に呼び出し、右T子に前記睡眠導入剤入りの飲み物を出して同女を眠り込ませた上、R方の鍵を盗んで被告人Aに渡し、被告人Aが合鍵を作って空き巣に入る旨の計画を立てた。

2  犯罪事実

被告人両名は、I子と共謀の上、T子(当時二四歳)を昏睡させてその所持品を強取しようと企て、同月一七日午後七時ころ、I子方において、その場に呼び寄せたT子に対し、I子において、被告人Aがあらかじめ用意していた睡眠導入剤ハルシオン錠剤の粉末をアップルティーに混入してこれを飲用させ、よって間もなくT子を昏睡状態に陥らせた上、同女所有の同女方玄関ドアの鍵などが取り付けられた鍵束(時価合計約二五五〇円相当)を強取した。

五  住居侵入、強盗殺人被告事件

1  犯行に至る経緯

被告人Aは、前記昏酔盗により作った合鍵を使ってR方に侵入し現金を物色したものの発見することができなかったため、かねてJから、人材派遣業を営む乙原建設興業有限会社を経営するU、V子夫妻(以下それぞれ「U」、「V子」といい、また両名を「U夫婦」、あるいはUの旧姓をとり、単に「U'」ということもある。)が、競争馬の売買のために多額の現金を動かしているという情報を得ていたこともあって、同年四月下旬ころから、Jと頻繁に連絡を取り合うようになり、同人から、U夫婦が競争馬の売却により二〇〇〇万円程度の現金を所持しているという話や、V子はいつでも手持ちのバッグに三〇〇万円程度の現金を入れているとの話を聞いた。そこで被告人Aは、被告人Bにその話をした上、同人とともにU夫婦を狙うようになり、四月二五日ころには、被告人Bにおいて富山市《番地省略》所在のU方に空き巣に入ってみたものの、現金を発見することができなかった。しかし、被告人Aは、その後も、Jから、同人がU夫婦の持ち馬のほとんどについて売買の仲介をしているので、U夫婦が死ねば、Jにおいて持ち馬の処分ができ、処分すれば三〇〇〇万円位になる等の話を聞いたこともあって、被告人両名の間では、次第にU夫婦の所持金を奪うにとどまらず、U夫婦を殺害するという計画に発展していった。

被告人両名は、U夫婦襲撃を実行に移すため、同月二九日から三〇日にかけて、U方やその持ち馬がいる富山県《番地省略》地内の厩舎を下見する等した上、五月一日早朝には右厩舎へ向かうUを常願寺川堤防上で待ち伏せたり、同日午後には当時牧場用地を物色していたU夫婦に牧場用地に案内するともちかけて富山地方鉄道上滝駅前あるいは前記厩舎に呼び出した上、U夫婦を殺害しようと計画したが、Uのみが来たり、また殺害しようとした現場付近に人がいたため、実行を断念せざるをえなかった。そこで、同日夜、被告人Aにおいて、U方に乗り込み、所携のけん銃でU夫婦を殺害して現金を強奪しようと考え、U方を訪問したが、Uが応対に出ただけでV子が出てこず、現金の所在も確認できなかったため、実行できなかった。

また、この間、被告人両名は、Wが八〇〇万円の現金を取得したとのJからの情報に基づき、現に現金を所持していると思われたWの内妻を襲って現金を奪おうと考え、五月一日には同女方に赴いたが、同女の友人が同席していたため断念せざるをえなかった。

右の経緯で、被告人Aは、前述の五月三日の期限までにQに三〇〇万円を返済することが困難となったため、五月二日、同人に連絡し、右期限を連休明けの五月七日まで延期してくれるよう懇願し、同人からは七日午前九時を期限とする旨の了解を得たが、返済資金を獲得するためにはU夫婦を殺害するほかないとの思いに駆られるばかりであり、五月二日の夜には、Bが所有している二五口径のけん銃では威力も小さく、U夫婦を同時に殺害するのは困難であると考え、右けん銃を大型のけん銃に交換することを被告人Bと電話で話し合い、被告人Bにおいて名古屋市の暴力団員と連絡を取った上、翌三日、被告人両名は、I子運転の車で名古屋市に赴き、二五口径のけん銃と残りの実包一二発を四四口径の回転弾倉式けん銃と実包七発に交換し、帰路、被告人Aにおいて試射した後、けん銃と実包六発は被告人Aが自己の管理する普通乗用自動車内に隠匿保管した。

その後被告人Aは、U夫婦襲撃の機会を窺っていたが、被告人Bが大阪に行っていたため連絡が取れないこともあって、五月七日の返済期限を目前にして焦りは深まるばかりであり、名古屋からNを呼び出し、同人とU方に赴いてU夫婦を襲撃しようともしたが果たせず、五月六日には、同人の焦燥感は極限に達していたところ、同日午後七時ころ、U方の様子を見に行った際、Uから、翌日には川崎競馬場へ行く旨聞いたことから、何としてでも当夜中に計画を実行に移さなければならないと考えるに至り、Jからも、電話で、今夜Uは二〇〇〇万円位所持している、V子はいつも三〇〇万円から四〇〇万円はバッグに入れている、と聞いたことから、犯行を決行する決意をし、翌七日午前零時ころ、I子方にいた被告人Bに電話し、「U'の家を見てきたら二人ともおる。明日は川崎へ行ってどうにもならなくなる。一〇〇〇万や二〇〇〇万はあるはずだ。三〇〇万は絶対にある。もしなかったとしても銀行が開けば五〇〇万円がスーッと出る。これから出てこれんけ。」と強盗殺人の実行を促したが、被告人Bは、今までの計画がことごとく失敗に終わっていたこともあって、同意することをためらった。そこで被告人Aは、U夫婦が在宅していることを再度確認した後、さらに同日午前一時ころに被告人Bに電話し、「明日おらんし、日もないぞ。今晩やらんとどうにもならん。三〇〇万円位はあるはずや、その他に馬を売れば金になる。俺、明日どうしても金いるし、どうしても今晩でないと駄目や。何でもいいから殺ってみんことには金も入らん。やんまいけ。」などと促したところ、被告人Bも被告人Aの決意の固いことを知り、当夜計画を実行に移すことに同意し、被告人両名は同日午前二時に富山市新圧新町のスカイタウントヤマ東側駐車場で落ち合うことを約した。

2  犯罪事実

被告人両名は、共謀の上、U夫婦を殺害して金員を強取しようと企て、同日午前二時ころに前記スカイタウントヤマ東側駐車場で落ち合い、被告人Aの運転する車で前記U方付近に赴き、犯行の機会を窺った上、同日午前三時三〇分ころ、被告人Aにおいて、実包四発を装填してあるけん銃(平成三年押第三六号の4)を携帯してU方物置に侵入したものの、居室部分には侵入できなかったため、被告人Bにおいて、U方風呂場の窓から忍び込み、同方西側アルミサッシ戸を解錠し、同日午前四時ころ、被告人Aにおいて、右アルミサッシ戸を開けてU方居室内に押し入り、もって人の住居に侵入した上、被告人Aにおいて、二階寝室で就寝中のU(当時五四歳)及びV子(当時三七歳)の顔面を目掛けて所携のけん銃を発射し、同人らに実弾各一発を命中させ、同夫婦をいずれも脳損傷により即死させて殺害した上、同夫婦所有の現金約一二〇〇万円等在中のバッグを強取した。

六  銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反被告事件

(犯罪事実)

1 被告人Aは、Bと共謀の上、法定の除外事由がないのに、同年五月七日午前四時ころ、前記U方及びその周辺において、回転弾倉式けん銃一丁及び火工品であるけん銃の実包六発を所持した。

2 被告人Bは、I子と共謀の上、法定の除外事由がないのに、同年七月九日、前記庄田ハイツ駐車場において、前記けん銃一丁及び火工品であるけん銃の実包四発を隠匿所持した。

第二証拠の標目《省略》

第三事実認定に関する補足説明

一  被告人Bは、判示強盗殺人について、被告人Aの手助けをしたにすぎないと供述し、弁護人も、共同正犯ではなく従犯にすぎない旨主張しているので、以下において補足して説明する。

弁護人の主張の骨子は、(1)被告人Bは、以前U方に窃盗目的で侵入したものの現金等を発見できなかった経験を有し、同人方に現金があるか否か懐疑的であった上、被告人Aと異なり、借金の返済を迫られているという状況にはなかったことからして、被告人Bに強盗殺人を積極的に遂行する動機は存しなかったこと、(2)被告人Bと被告人Aが金員を狙って共に行動するようになってからは一貫して被告人Aが主導的立場におり、被告人Bはそれに従属していたこと、(3)被告人Bは、被告人Aに対し「人一人殺すといったら大変なことだぞ。」とか、けん銃が凶状持ちである旨の発言をしたり、犯行直前に北陸を離れて大阪へ暴力団の事務所当番に赴いたり、また犯行当夜も最後まで強盗殺人の決行を躊躇するなど、被告人Bには強盗殺人に関する消極的言動が散見されること、(4)被告人らの間に強盗殺人の具体的な実行方法に関する打合せがなされていないこと、(5)被告人Bは犯行当夜何ら強盗殺人の実行行為を行っていないどころか、見張り行為さえもしていないこと、(6)被告人Bが本件犯行で得た分け前は被告人Aが決定したものであり、しかももともと被告人Aが被告人Bに支払うべき部分を除外すれば、右分配金は二三〇万円にとどまることなどの事実を総合すれば、被告人らの間に共謀が認められず、被告人Bが従犯にとどまるのは明らかである、というにある。

二  そこで検討するに、関係各証拠によれば、共同正犯の成立の有無を判断する上で重要な以下の事実が認められる。

1  犯行当時、被告人B自身も現金が必要であり、同人にも犯行動機が存在すること

関係各証拠によれば、犯行当時、被告人BのR等の金貸しに対する借財やローン残高の合計が一〇〇〇万円以上にのぼっていた上、被告人Bは暴力団組員としての交際費等で毎月一〇〇万円近くの金を必要としていたこと、被告人Bが被告人AにE歯科医院の手形を借用するなどして新たな借財を繰り返していたことなどが認められ、被告人B自身も公判廷で幾ら金があっても困らない状態であったと供述するとおり、被告人Bが犯行当時現金を必要としていたことは明らかである。そして被告人Bが、前記第一で認定したとおり、被告人Aとともに現金を取得するため、窃盗や昏酔盗などの犯罪を計画し行動していったこと、被告人Aとともに現金強奪のため何度もU夫婦を付け狙っていたこと、本件当日も、わざわざ内妻であるI子に自動車を運転させて金沢から富山に赴いてまで犯行に加担して分け前を取得し、その一部を借金の返済に充当していること、さらには、強盗殺人後においても、五月下旬ころ、R方に盗聴器を仕掛け、現金の所在を探っていること等の経過を考え併せれば、被告人Bにおいて、現金取得の欲求は強く、これが本件強盗殺人の犯行動機となったことを認めるに十分である。

なるほど、弁護人が主張するように、被告人Bの借財は、被告人Aのそれに比べれば、緊急に返済を迫られているという事情にはなかったことが認められるが、さりとてその多額の借金の返済義務が消滅したわけではなく、また、月々多額の生活費等が必要な状況に変わりはなかったのであるから、右事情により被告人Bには強盗殺人を犯す動機はないとする弁護人の主張は採用できない。また、弁護人は被告人Bには収入の見込みがあったとも主張しているが、その主張する債権取立の報酬は、Rへの借金と相殺するものにすぎず、現実に自分の生活費に充てることができるものではないと認められるし、現実に収入の当てがあるのであれば、四月二五日ころにU方に窃盗目的で侵入したり、五月一日に被告人AとともにW方で現金を強奪しようとした事実を説明しえず、被告人Bと同棲していたI子がソープランドで稼働する決意をする必要もなかったことになるのであって到底採用できないものである。

2  本件強盗殺人を犯す直前までの被告人両名には、犯罪遂行に向けての共同関係が認められること

被告人両名の平素の関係をみると、被告人Aが被告人Bに比べて四歳年長であったことや、被告人Bの所属する暴力団の組長Cと付き合いがあったことが認められるものの、両名の間には、組織上あるいは身分上、いずれかが上位に立つという関係はなかったものと認められる。

また、被告人両名が、現金を狙って行動を共にするようになってから本件強盗殺人に至る直前までの両名の関係をみても、被告人Aが被告人Bに対し様々な計画を実行する旨働きかけると、被告人Bもそれに応じ、犯行の遂行に不可欠な行動を取っていることが認められ、両名には犯行遂行に向けての共同関係が成立していたことが認められる。

すなわち、被告人両名が平成三年三月下旬ころJを殺害して所持金を強奪しようとして待ち伏せした際に準備したけん銃は被告人Bが所持していたものであるし、同年四月上旬ころRをおびき出して殺害し、その所持金を強取しようとした際には、Rを呼び出す行為は被告人Bが担当し、その犯行場所も自らが居住していたI子方を提供しており、判示の昏酔盗を共謀して実行に移している。また、同月二五日には窃盗目的でU方に侵入し、二九日にはU夫婦を襲うためにわざわざ金沢から富山に赴き、被告人Aとともに同日及び翌三〇日にU方や厩舎の下見を行う一方、Wの内妻を殺害してその所持金を強奪する計画も共謀し、被告人Aとともに内妻方に赴いている上、いよいよU夫婦を殺害しようとしたときは、被告人B自身、小口径のけん銃で二人を殺害するのに不安をもち、わざわざ金属バットを自動車のトランクに入れてU夫婦の一方をそのバットで撲殺する意思で現場に臨んでいるのである。これらの事実に鑑みれば、被告人Aが情報を仕入れて計画を立案し、主導的な立場で犯行を遂行していったとの関係が認められることは否定できないところであるが、本件強盗殺人に至るまでの一連の過程において、被告人両名は、U夫婦殺害の計画を含め、共同して行動していたことは明らかであり、同人らの相互依存関係は相当強かったと認められる。

右事情からすれば、被告人両名の関係は、弁護人が主張するように、被告人Bが被告人Aに一方的に従属するというような関係にはなかったと認めるのが相当である。

3  被告人Bが、本件強盗殺人を遂行するため、凶器であるけん銃(以下「本件けん銃」ともいう。)を入手していること。

犯行に至る経緯記載のとおり、被告人両名が、平成三年五月三日、被告人Bの知り合いから本件強盗殺人に使用された本件けん銃を入手すべく名古屋市に赴き、被告人Bにおいて従前所持していた二五口径のけん銃と交換してこれを入手したことが認められるが、本件けん銃の入手は、U夫婦殺害に向けて狂奔している状態の被告人Aからの依頼に基づくものであったことや、被告人Bとしても、被告人Aとともに四月二九日から五月一日にかけてU夫婦等を付け狙い、被告人Aの右状態を十分知っていたことに照らせば、右けん銃入手の目的は、U夫婦に対する強盗殺人を完遂すること以外には考えられず、被告人Bも右事情を十分理解していたと認められる。

もっとも、被告人Bは、被告人Aと比べて本件けん銃を入手するのにさほど積極的ではなかった上、もともと被告人Bと入手先との間に以前から大型けん銃に交換する約束があったこと、被告人Bは被告人Aに対し、「人一人殺すのは大変なことである。」、あるいは「本件けん銃は凶状持ちである。」旨述べるなど、同人にけん銃使用を戒めているようにもとれる発言をしていることを認めることができる。しかし、以上のことから弁護人が主張するように、被告人Bが本件けん銃を入手したのは本件強盗殺人のためではなかったと結論づけるのは論理の飛躍がある。前記のような本件けん銃入手のいきさつや入手後直ちに本件けん銃が被告人Aに手渡されていること、その後の使用状況に照らせば、「凶状持ち」との被告人Bの発言は、被告人Aがこれを強盗殺人に使用することを牽制するというより、被告人Bが捜査段階において供述するように、被告人Aがけん銃を持つとあれも殺る、これも殺る等と人が変わる様に見受けられたので、あちこち振り回されたらかなわないので、その取扱いに注意してほしいとの思いから発せられたもの(平成三年八月一一日付け員面調書(乙五一))と理解するのが相当である。

被告人Bが本件けん銃を入手していなければ本件強盗殺人の実行は不可能であったことは疑いを入れないところであり、本件強盗殺人の準備行為の側面に限ってみても、被告人Bが本件強盗殺人の遂行に果たした役割りは極めて大きいと認められる。

4  被告人Bの本件強盗殺人決行当夜の行動状況、ことに同人は犯行を完遂する上で不可欠な行為をしていること

関係各証拠によれば、被告人Bは、強盗殺人決行当夜である五月七日、被告人Aから電話で犯行決行の誘いを受けた際、その言葉の内容から同人においてU夫婦を殺害してその所持金を強取しようとしていることを十分認識しながら、金沢から富山に赴くことに同意し、深夜わざわざ金沢から富山に赴いていること、被告人Aと富山市内で落ち合い、U方付近に赴き、犯行を決行するに至るまで、被告人Aが犯行を決行しようとしているのを知りながら、これを制止する等の行動に出ていないのはもとより、被告人Aとともに犯行現場付近の状況を下見する中、被告人Aが強盗殺人の実行を躊躇しU方周辺を車で徘徊している際には、舌打ちをするなど明らかに被告人Aの優柔不断な態度に苛立ちを示していること、さらに被告人Aが犯行の決意をするや、その依頼に応じて本件けん銃の実包装填状況の確認等もしている上、被告人AがいったんU方の侵入に失敗して戻って来た際には、犯行の中止を提案するどころか、逆に自ら進んでU方への住居侵入の実行行為を行い、U方のアルミサッシ戸の解錠を行うことによりはじめて被告人Aの侵入を可能にしていることが認められる。右事実中、被告人Bがアルミサッシ戸を解錠した点は、被告人Aにおいて強盗殺人を実行するために不可欠であり、犯行遂行に対する寄与度という視点からは、まさに強盗殺人の実行行為に準ずるとも評価できる行為であり、被告人Bの犯行当日の一連の行動状況を見れば、そこには単に被告人Aのペースに巻き込まれて付和雷同的に追従していたというのとは異質な犯行遂行に対する積極的関与ないし意欲を認めることができるのである。

弁護人は、被告人Bは、過去にU方に侵入してめぼしい現金がなかったこと、一週間前にU夫婦に対する強盗殺人を実行するため富山に来た時は失敗に終わったことからして、この時点ではU夫婦に対する強盗殺人を遂行する意欲を喪失していたのであり、内妻を伴い、しかも特段の準備をせずに富山に赴いていることからしても、被告人Bには未だ強盗殺人の計画に参加する意思はなかったと主張する。しかし、それでは何故に被告人Bが被告人Aの求めに応じ、わざわざ金沢から富山に赴いたのかということが逆に問われねばならないのであるが、この点に関する被告人Bの当公判廷における供述は、強盗殺人に加担する意図がなく、被告人Aからしつこくせがまれたのでとりあえず富山に向かったというもので、その程度の理由で何故に強盗殺人という重罪に巻き込まれかねない危険な状況にあえて自ら近づいたのかという点を何ら説明しえず不自然である上、前記認定のとおり、僅か数時間後に犯行完遂に不可欠な行動を取っているという客観的事実にも矛盾し、到底首肯できるものではない。付言するに、被告人BがI子に自動車を運転させたのは、単に免許の効力停止中の被告人Bが確実に富山に行くための手段であったと認められるし、犯行当日、被告人Bが金沢から富山に赴く際に本件強盗殺人実行のために特段の相談や準備をしなかったとの点も、既に本件けん銃が被告人Aのもとにあり、犯行現場が富山であったことからすれば特に奇異なことではない。また、被告人BがU方に侵入した際に本件けん銃を携帯して行かなかった点も、被告人Bが自ら実行行為を担当する意思がなかったことを物語るものであるが、それ以上に、強盗殺人計画の実現を意欲していたことを否定する根拠とまではなり得ない。

5  強盗殺人実行直後、被告人Bは強取金約一二〇〇万円のうち約五三〇万円の分け前を受け取っていること。

被告人両名は、強取した金員を分配しているが、その状況は、まず、強盗殺人実行直後の時点では、被告人Bは被告人Aが手につかんでいたのより少し厚めの札束(三八七万円)を手にして精算は後の機会にすればよい旨述べて別れており、続いて五月七日夜に被告人Aと富山で落ち合い、被告人Aから、残りは約二〇〇万円で自分が行動費として五〇万円もらうが、別に渡す分もあったので残りは取ってくれと言われて了承し一五〇万円を受領したというものである。被告人Bの取得金は、ほぼ山分けに近い額に達し、右金員を被告人Aとの間で何らのトラブルもなく、当然のように取得していることが認められ、このことは、被告人両名の間に強取金の分配につき、およそ折半にするという暗黙の了解があったことを窺わせ、右事実自体、被告人Bが被告人Aの強盗行為をまさに自己の犯行と同視し、金員奪取の結果を意欲していたことを示す一つの有力な間接事実と評価できる。

被告人Bは、当公判廷において、右の五三七万円には本件けん銃の代金一二五万円、過去の絵画窃盗の自分の取り分一五〇万円及び被告人Aに対する貸金二五万円が含まれているから、実質的な取り分は二三〇万円にすぎないと供述する。しかし、捜査段階においては、なるほど右一五〇万については類似の供述があるものの、本件けん銃代金について一部負担の供述があるにとどまる上、被告人Bとしては、逮捕されるまで強取金の額は総額九〇〇万円前後と思っており、強取金の受取額自体は、自己の取得額の方が被告人Aのそれよりも多いとの認識にあり、被告人Bの主張する実質的取り分としても、被告人Aとの間に著しい不均衡があるとの認識は抱いていなかったと認められる(平成三年八月一八日付け検面調書(乙六〇)参照)ことからしても、右の公判供述は、事後のこじつけとの感を否めないのであって、被告人Bの強取金に対する取得欲を減殺する事情とは認めがたい。また被告人Aが強取金の分配に関し、事前に被告人Bに対し、「Jに渡さなければならない。」旨の虚偽の話をしていたことは、弁護人の主張するとおり、被告人Aが強取金の分配を自己の利益になるように行おうとしたことの現れであるが、被告人Bの役割が単なる幇助的なものにすぎないのであれば、被告人Aにおいて詐言を弄する必要など何らなく、それにもかかわらず被告人Aが右言動をとったことは、同人としては強取金を折半しなければならないとの認識があったことを窺わせ、右事実は、被告人両名の間でも強取金がほぼ対等に分配されねばならないとの暗黙の了解があったことを示唆する一つの間接事実とも評価できるのであって、本件強盗殺人における被告人Bの立場の重要性を裏付けるのである。

三  右に認定したとおり、被告人Bの本件犯行に係わる動機内容、被告人両名の本件犯行に至るまでの関係、被告人Bが本件犯行の準備段階や本件犯行時に果たした役割の重要性、犯行後の取得利益の処分状況等を総合すれば、被告人Bは、同人が捜査段階で供述するとおり、被告人Aと共同意思の下に一体となって相互の行為を利用補充しあい、自己の強盗殺人の犯意を実行に移すことを決意し、強盗殺人の実行に不可欠な行為を担当していると認められるから、被告人Bが被告人Aと共同正犯の関係に立つことは明らかである。

次に、共謀の成立時期について検討すると、被告人Bが捜査段階で供述するとおり、同人は、五月三日にけん銃を交換した後は被告人Aと別行動を取っていた上、犯行当夜被告人Aから犯行の決行を打ち明けられた際、当初犯行決行について相当消極的であったことが認められるが、最終的には同人の誘いに応じて富山に向かうことを決意し、それ以後は前記認定のとおり数時間後に被告人Aとともに本件犯行に至っていることからすれば、被告人Bが犯行当夜に被告人Aの求めに応じて富山に向かうことを了解した段階において、従前の両名間に認められた共同関係が復活し、ここに共謀が成立したと認めるのが相当である。

第四確定裁判

被告人A関係

一  事実

平成三年一月一六日富山地方裁判所宣告

窃盗罪により懲役一年六月 四年間刑執行猶予 保護観察付

同年一月三一日確定

二  証拠

前科調書

第五法令の適用

一  被告人A

罰条

第一の二の1ないし3の各行為 刑法六〇条、二四六条一項

第一の三の2の行為 同法六〇条、二三五条

第一の四の2の行為 同法六〇条、二三九条、二三六条一項

第一の五の2の行為のうち

住居侵入の点 同法六〇条、一三〇条前段

強盗殺人の点 被害者ごとに同法六〇条、二四〇条後段

第一の六の1の行為のうち

けん銃所持の点

行為時 同法六〇条、平成三年法律第五二号による改正前の銃砲刀剣類所持等 取締法三一条の二第一号、三条一項

裁判時 刑法六〇条、銃砲刀剣類所持等 取締法三一条の二第一号、三条一項

平成五年法律第六六号附則二項、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。

実包所持の点 同法六〇条、火薬類取締法五九条二号、二一条

科刑上一罪の処理

第一の五の2の罪について 刑法五四条一項後段、一〇条(重い強盗殺人罪の刑で処断)

第一の六の1の罪について 同法五四条一項前段、一〇条(重いけん銃所持罪の刑で処断)

刑種の選択

第一の五の2の罪について 死刑選択

第一の六の1の罪について 懲役刑選択

併合罪の処理

第一の二の1ないし3及び第一の三の2の罪について

同法四五条後段、五〇条、四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第一の三の2の罪の刑に加重)

第一の四の2、第一の五の2及び第一の六の1の罪について

同法四五条前段、四六条一項本文

訴訟費用の不負担 刑事訴訟法一八一条一項ただし書

二  被告人B

罰条

第一の三の2の行為 刑法六〇条、二三五条

第一の四の2の行為 同法六〇条、二三九条、二三六条一項

第一の五の2の行為のうち

住居侵入の点 同法六〇条、一三〇条前段

強盗殺人の点 被害者ごとに同法六〇条、二四〇条後段

第一の六の2の行為のうち

けん銃所持の点

行為時 同法六〇条、平成三年法律第五二号による改正前の銃砲刀剣類所持等 取締法三一条の二第一号、三条一項

裁判時 刑法六〇条、銃砲刀剣類所持等 取締法三一条の二第一号、三条一項

平成五年法律第六六号附則二項、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。

実包所持の点 同法六〇条、火薬類取締法五九条二号、二一条

科刑上一罪の処理

第一の五の2の罪について 刑法五四条一項後段、一〇条(重い強盗殺人罪の刑で処断)

第一の六の2の罪について 同法五四条一項前段、一〇条(重いけん銃所持罪の刑で処断)

刑種の選択

第一の五の2の罪について 無期懲役刑選択

第一の六の2の罪について 懲役刑選択

併合罪の処理

第一の三の2、第一の四の2、第一の五の2及び第一の六の2の罪について

同法四五条前段、四六条二項本文

未決勾留日数の算入 同法二一条

没収 同法一九条一項一号、二号、二項本文

訴訟費用の不負担 刑事訴訟法一八一条一項ただし書

第六量刑の理由

一  事案の概要

本件は、被告人両名が、共謀の上、金欲しさから、平成二年八月から平成三年五月にかけて、不動産の売買代金を狙った車上盗、金融業者の所持金を盗むため、その内妻に睡眠導入剤を服用させて自宅の鍵を盗取した昏酔盗を次々に犯し、果ては深夜他人の居宅に侵入し、就寝中の何ら落ち度のない夫婦をけん銃で射殺して多額の現金を強取し、被告人Aにおいては、これらに加えて支払期日に確実に不渡りとなるいわゆる買い手形を利用して金員を騙取し、また被告人Bにおいては、右けん銃を内妻方に隠匿保有していたという事案であり、特に、本件強盗殺人の責任が重大であることは言をまたない。

二  一般的情状

まず、一般的情状から検討する。

1  強盗殺人関係

(一) 判示強盗殺人は金欲しさから短絡的に被害者夫婦を殺害したというものであって、極めて自己中心的な犯行であり、その動機は悪質で同情すべき点は何ものも存しない。

(二) 犯行態様も、被害者方住居に、深夜被害者夫婦が就寝するのを待って忍び込み、寝室において熟睡中の夫婦の顔面に狙いを定めて破壊力が絶大な大型けん銃を至近距離から二発発射し、それぞれの顔面に命中させ、その場で同人らを即死させたものであって、その手口は全く無防備の者を急襲して惨殺に及んだ残酷極まる最も悪質なものである。

しかも、右犯行は、被害者らを殺害して金員を強取する目的の下、犯行の機会を窺って何度も執拗に被害者らを付け狙った末、殺害という目的を確実ならしめるため、既に入手していた小型けん銃を殺傷能力の絶大な本件けん銃に交換し、試射するなどの準備行為を行った上、命中しそこなった場合に備えてけん銃に予備の実包まで装填し、殺害の確実性を期して犯行現場に臨んでいるというもので、周到な準備に基づく極めて計画的な犯行である。

(三) 犯行結果についてみるに、U夫婦を射殺し、かけがえのない二人の生命を瞬時のうちに次々と奪ったものであって、その結果が極めて重大であることはいうまでもない。

Uは当時五四歳、V子は当時三七歳であり、両名とも働き盛りで共に協力しあって事業を営み、平穏な生活を送っていたところ、結婚後わずか三年足らずにして、自宅で就寝中に凶弾に倒れ、非業の死を余儀無くされたものであり、もとより被害者らには何らの落ち度も認められないのであって、その無念さは察するに余りあるものがあり、Uに対してこれまで深い愛情を寄せていた実母、実子の無念さや、V子の実兄の悲嘆のほども甚大であると窺われ、とりわけ被害者らが血の海となったベッドの上で射殺されている惨状を第一に発見した実子の恐怖、驚愕、悲嘆のほどや、被告人らに対する憤激の情は察するに余りあるが、被告人両名は、審理の終盤に出廷した遺族らがなおも被告人両名に極刑を望む旨述べるのを聞くに至って、初めて遺族らに対し謝罪の手紙を出したのみであって、それまで遺族に対し何らの慰謝の措置を講じておらず、遺族らが右のような峻厳な処罰感情を抱いているのはけだし当然といわなければならない。

また、犯行の結果強取された金員の総額は約一二〇〇万円にも及び、この種の犯行に伴う奪取金としては極めて多額であり、本件犯行により、U夫婦の営んでいた人材派遣会社は資金繰りに行き詰まって間もなく倒産し、実子を含めた従業員がその生活の糧を断たれるという結果をもたらしたもので、財産的側面での影響も甚大である。さらに人が最も無防備な状態になる深夜、寝室に忍び込んで熟睡している夫婦を射殺するという本件犯行は、近隣住民のみならず、地域社会にも多大な衝撃を与えたものであり、一般予防の観点からもこの種の凶悪事件に対しては厳罰をもって臨むべきであるという社会的要請も無視できない。

2  その他の犯罪関係

(一) 判示詐欺は、Jに融資した二〇〇万円の回収を図るため、いわゆる買い手形詐欺を計画し、Jにこれを実行させたものであり、被害金額も合計約五六六万円と多額であって、被告人Aが騙取金の分配金等を受けていないとはいえ、被告人Aがいなければ右手形の取得は不可能であったことからすれば、被告人Aが果たした役割は大きなものがある。

(二) 判示窃盗は、自らが仲介した不動産売買の代金の一部を、売主の信頼を悪用して計画的に盗取したという点で卑劣な犯行である上、犯行態様も、白昼飲食店の駐車場に駐車中の自動車の窓ガラスを大破させて窃取に及ぶという大胆なものであり、被害金額も一〇〇〇万円と多額であり、被告人両名はそれぞれ二五〇万円もの分配金を取得している。

(三) 判示昏酔盗は、歯科医院事務長といいう立場を悪用して歯科医院から持ち出した睡眠導入剤を使い鍵を強取し、その合鍵を使って被害者方に侵入し現金を窃取しようとしたもので、極めて計画的な犯行である。また共犯者と被害者が親しいことを利用して情を知らない被害者に睡眠導入剤を服用させるという犯行態様も卑劣である。

(四) 判示けん銃及び実包の所持は、それ自体極めて危険性の高い犯罪であって大きな非難に値するものであり、被告人Aについては、強盗殺人を敢行するために所持していたのみならず、その後も第三者を殺害するために所持していたものであり、また被告人Bについては、債権取立のために使用し、強盗殺人に使用した後もなお所持を継続していたもので、その責任は看過できないものがある。

三  被告人両名の個別的情状

次に、右の一般的情状に加えて、以下、各被告人の個別的情状について検討する。

1  被告人A

被告人Aは、昭和六二年五月に恐喝未遂罪により懲役一年、三年間執行猶予に、昭和六三年一月には傷害罪により罰金五万円に、平成元年五月には賭博罪により罰金一五万円に処せられたのに続き、平成三年一月には窃盗罪により懲役一年六月、四年間執行猶予、保護観察付きに処せられていたにもかかわらず、本件昏酔盗、強盗殺人を続けざまに敢行したものであって、被告人の犯罪傾向には深刻なものがあるといわなければならない。

右昏酔盗、強盗殺人は、被告人Aが無断で流用した歯科医師振出名義の手形が暴力団員の手に回り、それを回収しなければせっかくつかんだ歯科医院事務長という職を失いかねないという状況に陥り、切羽詰まった窮境から何とか脱しようとして敢行されたものであるが、そもそもそのような事態に陥ったのは、地道に働きもせず、あぶく銭を糧とするような不良な生活を送る過程で借財を作り、事務長の地位を悪用して背信行為により無断で院長名義の手形を振り出したことがその発端と認められるのであって、被告人が右のような状態に陥った直接的な原因が、Pが被告人に無断で手形を暴力団員の手に回し所在をくらましたことにあるとはいうものの、いわば自業自得と評されてもやむをえないものであり、右の事情からすれば、犯行動機の点において特に酌むべき情状は存しない。

また本件強盗殺人に至るまでも、自己が面識を有する知人が現金を所持している噂を耳にすると、直ちに殺害して現金を強取する計画を立て、それが失敗するや、次々と標的を替えてその命を付け狙っていること、本件強盗殺人実行時も至近距離から睡眠中の被害者夫婦の顔面を目掛けてそれほど躊躇することなく、立て続けにけん銃を発射させていること、犯行後もかねてより恨みを抱いていた第三者の殺害を企図していったん被告人Bに返した本件けん銃を借り、現実に実行の機会を窺っていることなどに鑑みると、被告人の人命軽視の傾向には看過できないものがある。

他方、被告人は、事業に失敗して暴力団員と交友を持つに至るまでは勤勉に稼働していた上、鍵っ子の父母の会の会長として少年の育成に努めるなど、過去において人間らしい心情を持ち合わせていたことが認められ、また、被告人が本件強盗殺人の実行行為に着手するに際しては、自動車で何度も被害者方周辺を徘徊し、被害者方に侵入した後も一度は断念して被害者方から外に出るなど逡巡を繰り返し、最後は被告人Bの乗っている自動車を見てここでやめるわけにはいかないと自分に言い聞かせて意を決するなどした上、再度被害者方に侵入して前記実行行為に及んでいるととが認められ、右事実は、被告人の心の奥底に被害者らに対する人間的な感情や道義的な自責の念が少しなりとも残存していたことを窺わせるものといわなければならない。加えて、本件犯行が、事務長の地位を守ろうとして、いわば視野狭窄的な状態に陥った中で犯されたという面が否定できないこと、被告人が逮捕後は、本件各犯行を悔悟、反省し、捜査機関に対して素直に各犯行を自供していること、被害者らの冥福を祈る心境に至っていることなど、被告人にとって酌量すべき事情もある。

そこで量刑について検討するに、死刑が人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり、誠にやむをえない場合における究極の刑罰であることに鑑みると、その適用は慎重の上にも慎重に行わなければならないことはいうまでもないが、死刑制度を存置する現行法制の下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許されるものと解すべきところ(最高裁判所昭和五八年七月八日第二小法廷判決)、前記の被告人にとって酌量すべき事情を最大限に斟酌し、近時の死刑の適用状況を考慮したとしても、前述した被告人の罪責は誠に重大であるといわなければならず、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも、極刑をもって臨む以外にはなく、被告人を死刑に処することはやむをえないものと判断する。

2  被告人B

被告人Bは、昭和五七年二月に道路交通法違反の罪により懲役四月、三年間執行猶予に処せられたほか、条例違反や業務上過失傷害罪による罰金前科しかないものの、昭和六〇年ころに事業に失敗してから人生を狂わせ、昭和六二年六月ころから暴力団に属し、犯行当時も若頭という暴力団幹部の地位にあり、無為徒食の生活を過ごしながら、暴力団の威勢を背景に債権取立をしたりして生計を営むなど、その反社会的な性向には看過できないものがある。そして、本件昏酔盗、強盗殺人については、借金の返済や、暴力団員としての羽振りのいい生活を持続するため、安易に被告人Aに同調して犯行に及んだものであり、その動機に酌量すべきものは何もない。

また当初護身用として所持していたけん銃一丁と実包を被告人Aに保管させたことが、結果的に同人の一連の現金強奪計画を思いつかせ、果ては本件強盗殺人をなさしめることになったこと、また、本件強盗殺人を確実に遂行するために大型けん銃を入手し、犯行現場においても自発的に被害者方に侵入してドアを解錠することによって、結局強盗殺人の実行を可能にし、高額な分配金を取得していることなどを考慮すれば、本件強盗殺人に果たした役割は大きく、その責任も重大である。

しかし、他方、被告人が、被告人Aほどには現金に逼迫しておらず、犯行当夜においても、当初犯行への加担に消極的な態度を示したことからも明らかなとおり、被告人には被告人Aの強引さに引きずられて本件強盗殺人を決意したとの側面も認められ、主導的でかつ強盗殺人の実行行為自体を担当した被告人Aと比較すれば、その果たした役割や犯行遂行に対する意気込みに差があったことは否定できないところであり、これが被告人両名の刑責に相当な影響を与えるものと判断する。加えて、被告人が暴力団員であった期間は通算して三年余りで、既に組組織から離脱していること、逮捕後は本件各犯行を悔悟、反省し、捜査機関に対しても素直に犯行を自供し、被告人A同様、被害者らの冥福を祈る心境に至っていることなどの有利な事情が認められるが、これら有利な事情を考慮しても、被告人について、無期懲役刑を選択した上で、さらに酌量減軽すべきまでの理由は認めがたく、被告人については無期懲役に処するのが相当と判断する。

(裁判長裁判官 下山保男 裁判官 中山孝雄 中垣内健治)

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